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 運動会シーズンになると、よくK君のことを思い出す。

 K君は何ごとにも積極的に取り組むタイプの男の子で、運動会練習前の応援団員選出の時も自ら立候補の手を上げた。団長にも「やりたい。」と言って、その任についた。ただ、K君はやや自己中心的な面があって、自分の思い通りにいかないとすぐさじを投げてしまうことがあった。「やりたがり屋だけど長続きしない。」「最後まで忍耐強くやりとげられない。」ことが何度かあり、正直『最後まで責任をまっとうできるかなあ。」と私自身少々不安があった。 
 案の定、最初の2,3日はK君もほかの団員も新鮮な気持ちで練習に取り組んでいたが、だんだんと応援団の中で「ゆるみ」が生じてきた。「応援合戦の振り付けを午前、午後と考えること。」「しかも去年までと違う振り付けも考えること。」というめあてを持たせたが、なかなかアイディアがまとまらなかったようだった。K君は団員のアイディアをじっくり聞こうとせず、ふざけたり、自分の思いつきをあれこれと言うだけだった。そのうち、応援練習がただのふざけ合いのような状態になりかけた。
 私は、たまりかねてK君にきつく言った。「お前は、ただ面白いから、あるいは目立ちたいということで団長になったんか。だったら、やめろ。今ならまだ間に合う。けど、もし赤組のために団をまとめたい、小学校の思い出を自分の力で創り出したい、と思うんやったら、それだけの苦しみは覚悟しろ。そして、乗り越えろ。お前が今みたいないいかげんな態度でどうする。
白組に勝とうとする前に、お前の弱さに勝てよ。」
 次の日から、ほんの少しずつK君が変わってきた。応援団の動きもまとまってきた。私もK君をほめることが多くなった。
 運動会当日、応援合戦を見たK君のご両親が言った。「体が震えるくらい感動しました。」
 運動会が終わった後、教室に行って見ると、席に着いていたK君の目に涙があふれていた。満足した表情であった。

 運動会以降、K君はますますいろいろなことに前向きに取り組むようになった。ねばり強く取り組むようになった。
 

 

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